友 断 ち

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01

「オレ、お前とは友達やめるわ」
 そう宣言されたのは、何の特別な日でもない下校中の話だった。
 梅雨時のじめじめとした空気が漂い、小雨が降っていた。若干風が吹いて顔に雨が降りかかるのがウザったいと愚痴を零していたように思う。
 ヤツの斜め前をふらふら歩いていた最中、背後から不意打ちだった。
「……は?」
 てっきり賛同してくれるとばかり思っていたわたしは、予想外すぎる展開に頭がついていかず、なんと返事をすればいいのか分からずに立ち尽くす。
 噛み合わない会話にクエスチョンマークがわたしの頭上を飛び交い、一方相手の方はいつものアイツからは考えられないような真剣な眼差しでわたしをじっと見つめている。
 その間も微妙な雨はわたしの顔に降りかかっていて、その冷たさが現実なんだと教えてくれていることだけは把握できたのに……その他は何も分からない。
「え、えっと……わたし、変なこと言った? てか、雨ウザーって言っただけだよね? あ、まさかアンタ……小雨愛好家とか? そんでわたしが悪く言ったこと怒ってるとか? そうだったら謝るわ、ごめん」
 何が何だかよく分からなくて、思いつく限りの言葉を並べた。
 確実にこの理由はないとは思っているのは明白にしても、一度も見たこともないような目つきで自分を見られたら、そりゃ多少は気にする。
 だってコイツは大事なわたしの友達なのだ。
 そんな人に知らぬ間に何かしでかしたとしたら……それをどうにかしたいと思うのは当然の発想のように自分は思う。
「……言葉変える」
 呆れたような、何言ってるんだコイツと言いたそうなような、とにかくわたしを小バカにするような態度剥き出しでアイツはそう言い、一瞬だけムッとしながら発言主を睨む。
 だけど……次の瞬間には、その感情はあっという間に消失する羽目になった。

「お前を友達として『見られなくなった』。だからお前と友達でいられない。友達が苦しい」

 言い換えてくれた言葉を、わたしは上手く理解することができなかった。
 友達として見られない、いられない、苦しい。
 どんなものか分からないけれど、アイツの想いが、感情が丹精込められているものであることだけは分かった。
 力強く言葉にされたそれに、わたしは言葉を失う。
 そしてアイツは、わたしの隣を颯爽と通り過ぎてしまった。
 わたしなんかもう気にしてやるもんか……そう言いたげな様子でさっさと歩いていくその姿を、わたしは呆然と見つめていた。
 いつもはもっと歩くのが遅いと思っていたのに、今日に限ってはやたらと速い。
普段はわたしに合わせて歩いてくれていたから、本当はこっちの速さが本物かもしれないと思いながら……それでもやっぱり、わけが分からないという気持ちの方が強かった。
「……何であんな顔してんの」
 深く苦しんでいるような顔。だけど全く覚えがない。あんな顔をされるようなことなんてした覚えがないし、今までだってない。
 怒る時はもっと分かりやすい態度をとっているし、怒られてもその日のうちに解決してしまう。

 わたしは結局、アイツの背中を追いかけることも出来ずに立ち尽くすことしか出来なかった。
 そしてアイツは、わたしに話しかけなくなってしまった。
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Copyright (c) 2013 Ayane Haduki All rights reserved.  (2013.05.05 発行 / 2017.04.02 UP)