恋の病の仲間入り
歩き始めてからどれくらい時間が経っただろう。
夜道をふらふらと歩きながら、いつまでも冷めない熱にうなされる。
何なんだこれは。
こんな感覚に陥るのは初めてで、今でもさっき恥ずかしそうに……だけど一生懸命に話してくれたルーシーのことが、ぐるぐると頭の中を駆け巡っていた。
軽い気持ちだったはずの想いは、ただただ加速していくばかりだ。
ふわふわしていたのにだんだんと重たくなっていって、ずしんと俺の中に残り続ける。
それが今までの俺をぶっ壊してしまうようで、自分が自分でなくなってしまうかもしれないという恐怖が襲い掛かってきた。
多分、もう軽口を叩くのも難しいかもしれない。
「付き合って」なんて、軽々しく言うにも勇気がいるだろう。
むしろよく普通に付き合ってなんて言えたもんだ。
無自覚というのは何と恐ろしいものなんだろう。
だけど同時に、その頃がよかったと思うこともある。
だってもう俺は、この気持ちを無視できない。
気付いてしまった瞬間に忘れられない呪いにかけられて、知らない振りをしようとしたって無駄なのだ。
「…………苦しい」
走ったわけじゃない、ただずっと歩いているだけなのに息苦しい。
熱だって冷まそうと思って電車に乗らずに歩いているのに、一向に冷める気配がない。
冷めるどころか上昇していく熱は、冷静な自分をどんどん奪っていく。
いつもルーシーのメアドをゲットすることばかり考えていた。
いや……それはただのキッカケで、どんどんと別の目的でルーシーに近づいていく。
きっともう、どこかでこの気持ちは芽生えてしまっていたんだろう。
種から芽が出て、つぼみがついて……ついに花開いてしまった。
摘み取ってしまえばどれだけ楽だろう。
枯らしてしまえばこんな熱だって冷めてしまうかもしれない。
それでも今の俺にはそんなことできなくて、結局は花に水をあげることをしてしまうのだ。
足が疲れてきた。
だけど気付いてしまった想いの方が強くて、どれだけ歩いたか分からなくても歩く足は止まることはない。
家に着くまでに熱は冷めるだろうか?
というか、ここから近い駅から電車に乗った方がいいんじゃないだろうか?
「……いや、ダメだ」
この自問自答を、駅が見える度に繰り返した。……もう三度目になる。
電車の中で発狂し始めたら変質者だし、少しでも歩みを止めた瞬間、俺はうずくまって動けなくなってしまう……そんな気がして怖かった。
電車に乗ってしまえば、どこまでも遠くまで逃げ出してしまいそうだったんだ……。
家まではまだまだ遠い。
ルーシーのことを思うと胸は苦しくて、顔は熱くて、時折今までのことを思い出して悶え死にたくもなる。
明日からのことを思うと、どんな顔をしてルーシーと接すれば良いのか分からない。
今俺にできることは、想いに押し潰されないように歩き続けることくらいだった。