「好きです! 付き合ってください!」
「……ごめん、オレ、その……」
分かっていた展開だ。
それでも告白したかったのは、わたしが後悔しないための自己満足。
「やっぱり、幼馴染ちゃん?」
そんな質問、自分が傷つくだけなのに、言葉は止まらなかった。
「えっ!? ……あ、うん。そうだな。アイツが好きだ」
返ってくる言葉も反応も、全部全部分かっていた。
「そっか……そっか」
なのにわたしは玉砕したくて、わざと分かりきった問いかけをしてしまう。
彼は居心地の悪そうな表情で、この場をどう切り抜ければいいのかと必死で考えているんだろうな。
わたしまでもが申し訳なくて、さてこれをどう終結させるべきか……そちらに思考が傾き始める。
「でも、お前にそう言われて、オレみたいなのでも好きになってもらえたことは嬉しいと思う。ありがとな」
だけど彼は、どうしようもなく優しい言葉を口にした。
今優しくされると泣きたくなるのだけど、必死で堪えて笑顔を浮かべる。
泣かなかったことにホッとしたのか、目の前の彼の表情も申し訳なさの中から安堵がちらちら見えるような気がした。
……これでいい。
結果が分かっている告白をしておいて困らせたくないというのはバカげているが、それでも必要以上に困らせたくないという気持ちはちゃんと心の中にあった。だからこそ、安堵した彼を見てホッとしたんだ。
「ごめんね、困らせて。話を聞いてくれてありがとう。上手くいくことを……祈ってるよ」
彼の背中を見送ってから、わたしは暫しこの場所に立ち尽くしていた。
呼び出した中庭で、放課後の人気のないこの場所で。
まるで世界で自分だけが取り残されたかのように……オレンジに染まるこの場所で、わたしは小さく溜息を零した。
「……終わっちゃったな……」
声に出してしまうと、本当に終わってしまったんだという実感が沸いてくる。
彼にごめんと言われてもまだどこか実感がなかった気がしたのに……不思議なものだ。
でも、ようやく苦しかった気持ちから解放されるのだと思うと、それはそれで喜ばしく感じるような……そんな気がする。
わたしは所謂当て馬ポジションだった。
転校初日に迷っていたところを彼に助けてもらって、新生活と同時に片思い生活も幕を開けたのだ。
運命かもしれないっ!
……そんなことを柄にもなく考えてはしゃいでいた時期がわたしにもありました……。
だけどその運命が勘違いであったという現実は、すぐに知ることになる。
そう……彼には絶対に勝てないポジションにいるであろう、可愛い可愛い幼馴染がいたのだ。
最近よく聞く『ツンデレ』という性格を持つ彼女には、ライバルなのにわたしでさえときめく瞬間があった。
普段はツンツンしていて無愛想に見えるのに、彼の隣にいるとコロコロ表情が変化していく。
罵倒に似た汚い言葉を彼に吐き捨てるのだけど、それでも彼は慣れているのかニコニコしている。そんな彼が腹立たしいのか一生懸命ツンツンするのだけど、それが可愛くてしょうがないのだ。見てるこちらにもそれはひしひしと伝わっていた。
そんな二人は、勿論校内でも公認カップルのポジションを確立している。
……わたしでさえお似合いと思うのだから、勝てるわけがない。
というより……わたしは彼の、彼女に向けた優しい表情が……とてつもなく好きだったのだ。
それでもわたしは、彼への気持ちが忘れられなかった。
諦めようにも諦めきれず、ずるずると無駄に悩む日々を送る。
本当にバカなものだ。
わたしという存在は邪魔でしかなく、二人の関係を深める役でしかない。
彼の隣を歩けるという未来なんて存在するわけもなくて、今すぐに忘れて別の恋に乗り換えた方がいい。
全部全部、分かっていたことだ。
それなのに忘れられなかったのは……恋というものが厄介なせいだろう。
いつか想いが通じて、あの大好きな優しい表情が自分に向けられる日が来るかもしれない……そんな実現しない希望ばかりを抱いてしまい、それが更に忘れることを躊躇わせた。
うっかり彼らに近づく道を選んでしまった。
頑張って彼女の友達になり、彼とも必然的に話すようになり、あっという間に距離は縮まる。
縮まっている間は、何も考えていない間は……ただ傍にいられるだけで、幸せな気分に浸れた。
でもそれが、余計にわたしの首を絞める結果となる。
それもきっと分かっていたはずなんだ。……だけど忘れていた。
傍にいる間はどうしても恋していたことが抜け落ちる。
ふとした瞬間に彼にドキッとするのだけど、それと同じくらいに、彼と彼女のことを思い出して胸を痛めた。
距離を縮めることで、余計に惨めな思いをするだけだった。
……夢も希望もない、現実を思い知るだけだった。
そして今日だ。
正直、今日告白するつもりはなかった。
……こんなことになってしまったのは、彼女の存在のせい。
いや……彼女をその気にさせてしまった、わたしが原因だ。自業自得。
昨日、彼に告白してもいいかという感じのことを宣戦布告のように尋ねてみたら、今までの彼女からは想像もつかないような驚愕の表情を浮かべられ、盛大に動揺させられ、初めてむすっとした表情以外を見せ付けられてしまった。
「……わ、私なんかに許可とらなくても、勝手に告白すればいいじゃん。べっ……別に、アイツのこと好きってわけでもないし?」
彼女も彼が好きなんだ。
ずっと自分をごまかしてきた努力も、彼女の特別な表情と動揺する姿を見てしまえば全部泡になって消える。
ほんの少しの夢も希望も、全部全部……覚めてしまうんだ。
疑惑はあっさりと確信に変わり、キラキラと輝いていた世界は一瞬にして色褪せる。
そして、決心が生まれたのだ。
当て馬らしく、当たって砕けよう……と。
そして今に至る。
結果は分かりきっていた。当て馬なのだから、当然結ばれるわけもない。
わたしは主人公にもヒロインにもなれなかった。
彼の幼馴染になれるはずもないわたしには、何の勝ち目もない。
「……あーあ」
思わず呟きが漏れてしまうのだけど、なんでだろう……今のわたしにはショックな気持ちよりも安堵の方が大きい。
ありえるわけがないことは分かっていたのだけど……もしも自分が選ばれていたら、わたしは彼を嫌いになっていたかもしれないとどこかで思っていた。
何てバカげた話なんだろう。
わたしはあの二人の仲を引き裂きたいわけじゃなかった。
いつしか好きなのは彼だけじゃなくなっていて、種類さえも変わってしまった。……当て馬も何もない。
さて、玉砕してしまった後はどうすべきなんだろうか。
救いようのないこの想いから解放される方法は分かっていたのに、その先のことなんて全く考えていなかった。
しかも玉砕することしか考えていなかったのかと思うと、変な笑みがこぼれる。
彼への恋なんてどこへ行ったのやら。
……でも、彼への想いを消し去ると意味では……わたしの行動は正解だったのかもしれない。
こんなわたしでも、いつか主人公やヒロインになれるのだろうか?
玉砕してやるなんて思う暇もないくらい夢中になれる恋が。絶対に絶対に諦めたくないと、そのためになら醜い自分とぶつかったって構わないと……がむしゃらに突っ走れるくらいの恋が、わたしにもできるだろうか?
……誰かに尋ねたところで、わたしが納得する答えを教えてくれる人なんていないだろう。
わたしにもきっと分からないことなのだけど、キッカケがあれば答えに辿り着けるかもしれない。
今のわたしにできることは、ただ……前に進むことくらいしか思いつかなかった。
「…………でも、ちょっとだけショックだったなぁ…………」
わけのわからない笑みを浮かべながら素直な気持ちを小さく呟く。
幸いなのは、こぼれた涙が少量で済んだことだった。
そしてその涙が、わたしが恋をしていたことの証であると気付かされる。
二人を応援する立場になっても、当て馬でも、好きを見失っても……わたしはちゃんと、恋する乙女の一員だったんだと……思い知らされるようだった。
「明日からまた、頑張りますか」
ほんの少しこぼした涙を拭き取って、わたしはオレンジを眺めながら笑顔を浮かべる。
主人公もヒロインも、まだまだ先は長いけれど。
それでもいつか、メインポジションに辿り着けるまで。
空に輝く一番星を見つけた瞬間、わたしはひとつ、願いをかけた。
次は、ハッピーエンドの物語に出会えますように。
