いつも君は、わたしを大事にしてくれる。
おかげでわたしも大事にしたいと心から思えるし、負けないくらいに大事にする。
そうしたら君もわたし以上に大事にしてくれて、わたしもまた負けないように大事にする。
ずっとずっと、その繰り返し。
だからずっと、わたしたちは幸せのまんま。
わたしには付き合っている彼氏がいる。
一つ年下の、とても背の高い男の子。
去年同じ委員会になって知り合い、気付けば惹かれあっていた。あまりにも自然な流れだったので、そういう運命だったのかなって素直に受け止めている。
見た目はとても大人びていて、最初は年上なのかと勘違いしていた。
ほんわかで優しい彼と付き合って一年。
今でも平穏な日々は続いていて、気付けば校内で公認になっていたりして、わたしも彼も、とても幸せな日々を送っていた。いや、現在進行形で送っている。
「どうしたの? 由佳さん。オレの顔じーっと見て」
「えっ、そんなに見てた?」
「うん。とっても熱い視線だったよ」
とある日曜日。
彼……光輔くんの家に遊びに来ていたわたしは、いつの間にやらボーっとしていたらしい。
光輔くんのことを考えていたら、視線もついつい彼の方向へと向いてしまっていた。
全くそんなつもりもなく無意識だったおかげで、自然と顔が熱くなっていく。
「ご、ごめん……ボーっとしてて。別に、そんな視線を送るつもりなんてなくて……」
慌てて言い訳をしてみるけれど、きっとそんなものに効力なんてないんだろう。
「えーっ。オレは大歓迎だよ? ずーっと見ててくれても」
やっぱりわたしの言葉なんて関係なくて、光輔くんはどんどん距離をつめていく。目の前に座っていたはずなのにわたしの隣まで移動して、そっと寄り添っていつの間にか肩を抱いていた。
いつだって恥ずかしいことをほいほい口にしたり、行動に移したり……。わたしはいつも年下の彼氏に翻弄されっぱなしだ。
だけど、翻弄される度に気持ちがふわふわ浮かれていく。
要するに……嬉しいだけなんだ。
「由佳さんは可愛いね」
互いの温もりを共有しながら、光輔くんは恥ずかしがる素振りもなくそう言った。
「……可愛くないよ」
「そうやって否定するところがまた可愛い」
彼にはいつも敗北感ばかり味わっていて、それはもう数え切れないくらいの敗北感。
だけど、その敗北感も嫌じゃない。
何百回の可愛いの言葉でも、やっぱり慣れなくてむず痒い。
きっと彼にとって、挨拶のような言葉になっているのかもしれない。
それをいちいち気にして照れるのはおかしいかもしれないけれど……いちいちドキドキしたり照れたり、熱くなる顔の温度が愛おしく思える。
なんておめでたいんだろう。
わたしは、彼がふわりと優しい表情で可愛いと言うのを知っている。
わたしはその表情が大好きだ。
愛を真正面から受けるのは照れるけれど、愛されることは幸せなことだとわたしは思う。
本当に彼は、わたしを大事にしてくれている。
それは日常生活の中でひしひしと感じていた。
一緒に歩く時、わたしに危険がないように気を配ってくれるところ。
身長差があるわたしたちだけど、時々わたしの視線まで身体を屈めてくれるところ。
頑張った時は、大きな手で優しく頭を撫でてくれるところ。
辛くて泣いちゃいそうな時は、ぎゅっと抱きしめてくれるところ。
年が違うから少しでもわたしに追いつこうと、大人であろうと必死になっている感じがしているのも分かる。
「由佳さん」
優しい声色で名前を呼ばれたのに反応して、そっと光輔くんの顔へと視線を向ける。
その顔がねだっている顔であると把握したわたしは、ゆっくりと光輔くんの前へと移動する。
「へへっ。わーい」
移動した後、光輔くんは嬉しそうにわたしを正面から抱きしめた。
こうやって甘えるところは、やっぱり子供っぽく思う。
だけど見た目が大人っぽい彼にこういうギャップは、母性本能をくすぐられて愛しく思える。
カッコいいだけじゃないって主張しているような気がして、また一つ彼への好きが増えていくようだった。
勿論、彼に抱きしめられる度に……そのポイントは加算されていく。
もうポイントをカウントすることも諦めてしまった。
いいところばっかり言っている気がするけれど、駄目なところも勿論ある。
自分より相手を気にしすぎていて、もっと自分を大事にして欲しいと思う。
勉強が苦手というか、集中力が足りないところも欠点かも。
偏食で、ちょっぴり姿勢も悪い。えんぴつが正しく持てない。
きっといっぱいあるんだけど、わたしはダメだ。
……だって、全部愛しく見えてしまうから。
もうすっかり、彼色に染まったわたしには何があってもオッケーにしてしまう。
余程ショックなことがない限り、大体は受け入れてしまうんだ。
ああ、本当におめでたい。
「由佳さん」
「ん?」
「大好き」
「……うん」
「由佳さんに負けないくらい、たくさん」
恥ずかしくて、顔は上げられない。……とんでもない顔をしているだろうから。
好きの大きさをいつだって張り合う光輔くんの、そういうところもやっぱり子供っぽい。
だけど、きっとその張り合いは無意味で堂々巡りだ。
「わたしだって、大好きだよ。光輔くんに負けないくらい、たくさん」
大事にする度合いも、好きの度合いも。
お互いが張り合う度に相手を超えようとして、どんどん大きくなっていく。それだけだ。
些細なことで敗北を味わっているわたしも、こればっかりは譲れない。負けを認めたくない。
決着は……きっと死んでもつかないだろう。
「抱きしめてると安心する。由佳さんがちゃんとここにいるって実感できて」
光輔くんは、わたしを抱きしめる度にそんなことを口にする。
どうして? と尋ねると、幸せすぎて不安になるから、と答えたことがあった。
あまり負の感情を見せない彼の、数少ない感情。
でも、気持ちは分かるのでいつも同意していた。
わたしだって、抱きしめられている時が一番安心する。
こんなにも毎日が幸せで、もしも人生の幸せの量が決まっていたとしたら……わたしはもう、いつ幸せが途切れてもおかしくないと思うほどには幸せを感じていた。だからこそ、幸せすぎて不安を感じることは少なくない。
「わたしは今も過去も光輔くんといる時間が幸せで心地よくて大好きで……そんな時間を手放そうなんて考えないよ。考えたくない」
気持ちが変わらない限り、この幸せは永遠だ……なんて、甘い考えは持たない方がいいのかもしれない。
でも、不安を感じる時間が、疑惑の眼差しを向ける時間が、余計なことを考えている時間が勿体無くて……結局は甘くて楽な方へと逃げ込むんだ。
事前にあれこれ考えたって、不安が現実になってしまえば冷静にだってなれないだろうし、考えていたことが役立つかどうかもわからない。
なら……無駄を削減して、楽しく生きた方が賢明だ。
「そうだね。うん……ありがとう」
更に抱きしめる力を強める彼と同じように、わたしも力を強める。
それが、わたしたちの幸せを主張しているようだった。
わたしたちの熱い日々は、二人が繋がっている限り永遠に続いていく。
これはとある幸せの一日の一ページに過ぎない。
今後はもしかしたら何か波乱があったりなかったりするかもで……まあ、未来のことなんて何にも分からないけれど。
当面の目標は、現状維持でいきたいと思う。
