「……書けない」
自室の椅子に座ってパソコンと向き合っているわたしは、そう呟きながら天を見上げた。
ディスプレイに映し出されているのは、ネットサーフィンの痕跡。愛用しているブラウザにたくさんのタブが並んでいて、そのうちの一つであるSNSのサイトが開かれていた。
書けない……それも当然の話である。
テキストファイルも開かず、ソフトを開いているわけでもなく、もうかれこれ数時間、ただただネットサーフィンを楽しんでいるだけだった。
書けないというよりは、書く気がないと表現した方が正しいのかもしれない。
こんな日々を、わたしは何日も続けている。
スランプ、と表現するには大袈裟に感じる。書きたいことは脳内にあり、別に物語に行き詰まっているわけでもない。
じゃあ、何だと言うのだろう。
答えは明白だ。
ただ単純に、アウトプットが面倒くさいだけなのである。
パソコンに向かってカタカタと打ち込むことを面倒くさいと思っている……そういう時期なのだ。
「どうしようもないな……」
わたしはまた呟くけれど、一向に書こうとはしない。
スランプなんて恐れ多い。ただの怠慢であるだけのわたしは、自身を心の中で何度も罵るのだが、それでも書こうという気配が感じられなかった。
その間にも右手はマウスを動かしており、懲りもせずインターネットの波に乗っている。
それから、わたしはちょっとだけ回想にふけっていた。
何年前の話だろう。
個人がホームページを作り、作品を生み出してはホームページに掲載していく、そんな流行が存在した時代は。
あの時のわたしは、自身のホームページに作品を載せることに達成感や満足感を得ていた。
ギャラリーと称した、自身が生み出した小説を増やしていくことにどれだけわくわくしただろう。
更新記録が何日も続いたことに喜びを感じ、毎日更新することを目標としながら小説を書き続けた自分は今では過去の存在だ。
思えば、あの頃が一番作品を生み出していたように思う。
あの頃があったからこそ、今もそこそこの作品数を生み出せているのかもしれない……たぶん。おそらく。
今ではもう、個人でホームページを持つような時代も過去になってしまった。現在進行形で更新している人も勿論いるし、わたしだってホームページを持っている。
だけど、少なくともわたしは、昔ほどホームページを更新できていない。作品数だってそれほど多くもない。
あの、毎日更新していた自分はどこへ行ってしまったのだろう。
まあ、それも仕方のない話だ。
昔学生だった自分も、今では社会人として働きながら趣味を続けている。
こんなに長く続いた趣味は他にないし、今だってこんなにだらけていても愛している趣味だと言える。
小説……と称していいのかさえわからないが、小説を書くことを生きがいと感じているわたしは、今はこんなに堕落しているけれど、まだまだ小説を書きたいと思っている。
「そう、書きたいんだよ……これでも」
部屋に誰もいないことをいいことに、わたしは何度も独り言を口にした。
しかし、今もなお小説を書く気配はない。
言い訳ばかり並べて書かない理由を作ろうとしている、どうしようもない自分だけがここにいた。
いっそのことやめてしまえばいいのにな。
そう思うのに、先ほども申したとおり、わたしは小説を書くという趣味を愛している。人生の半分以上を注いだこの趣味を、簡単に手放せるほど愚かでもない。
もしも手放せるなら、今こうして悩んだりもしないだろう。
「とりあえず……メモ帳、開こうかな。とりあえず」
言い聞かせるように何度も呟きながら、わたしはここでようやくメモ帳を開く。
多分、一言でも書き始めたなら、何か書けるはずだ。
「何か……何か、何か書こう何か。あの話の続き……いや、こないだ思いついたネタ? うーん……何か、何か……」
ぼそぼそと悩みつつも、カタカタと入力していく。
長い間、頭の片隅で時折考えていた話だ。
それからは無心になって、タイピングの音だけが響き渡る。
ずっと考えていた話とは形が変わっているような気がするが、もうそんなことさえ気にする余裕もない。
気がつくと入力することに没頭していて、ただそれが終わるのを待つばかりだった。
そうやってわたしは、何度も何度も怠慢を繰り返しながら、物語を紡いでいく。
