君が困らないといいけれど

古泉×みくる


 初めて、古泉くんとキスをした。

 それは恋人同士になった者にとって、ただの通過点にすぎないのかもしれない。
 だけど、あたしにとっては世界がひっくり返ったような出来事で、あれから何度も、フラッシュバックされていた。

 放課後の部室で、たまたま二人っきりになって、それらしい雰囲気になって……ファーストキスは奪われていったのだ。

 少しだけ照れるように微笑む古泉くんを、あたしは目に焼き付けることができなかった。
 何故なら……それ以上に、あたしは照れて動揺していたから。
 もしかしたら、照れていたのかさえもきちんと認識できていなかったのかもしれない。


 それ以来、あたしはおかしくなってしまった。
 頭の中には常に古泉くんがいて、またキスがしたいと何度も願うようになっていた。


(もう一回キスがしたいって言ったら……おかしいかな……)


 きっと、恋人同士なのだから何度だってしてもいいものなんだろう。
 あたしが読んだ少女漫画では、恋人同士じゃなくても唇を奪うヒーローがいたものだ。
 それに比べれば、もう一度キスがしたい、という欲求は普通だと思う。


 ……しかし、恥ずかしさがあたしを踏みとどまらせている。
 ああ、どうしたら。
 どうしたら、もう一度キスがしたい、なんて言えるんだろう。


「古泉くん……困らないかな……」


 あたしの言うことなんて、きっと嫌な顔せずに聞いてくれるに決まっている。
 でも、古泉くんの意思はどうなるんだろう。
 本当はどう思っているのか、同じ気持ちなのか……あたしはたぶん、それが知りたいのかもしれない。


「未来のあたしは、知ってるのかな」
 ……二度目のキスの行方を。