さよならが近づいている。
僕と彼女の時間がわずかしか残っていない。
いろいろあり、彼女は未来へ帰っていくというのだ。
世界がどう転がっても……涼宮ハルヒが願ってもなお、その決定は覆せないものだという。
「あたしは、この時代の人間じゃありませんから」
寂しそうに笑う彼女は、あまりにも儚くて、今にも消えてしまいそうだった。
脳裏を過ぎるのは、かぐや姫の物語。
月へ帰っていく彼女を、彼女を愛する者たちはどんな気持ちで見送ったのだろう。
この時代の人間ではないし、未来人である彼女と恋愛をすることはある種の禁忌的行為だった。
自身を、そして彼女を苦しめる行為だったが、惹かれあった愚か者たちを止める者など存在するわけもなく、僕たちは自然と恋に落ちて、恋人同士になって……甘く優しいひと時を、楽しんだりして。
僕たちが恋に落ち、キスを繰り返し、身体を重ねる度に、残酷さを拡大させていくことに気づくこともできなかった。
いや……気づかない振りをしていた。
実は、彼女が未来人であるなんて真っ赤な嘘で、いつまでもこの時代に居続けてくれるのではないかという、莫迦なことを願ってしまうことさえあった。
だけど、もうそんな日々も終わり。
僕が泣いて縋ったとしても、彼女は寂しそうに笑ってお別れをするのだろう。
ああ、恋なんてするんじゃなかった。
恋はするものじゃなく落ちるものだとしても、這い上がって抜け出せたらよかった。
「朝比奈さん……」
ひとりぼっちの自宅のリビングで、僕は小さく呟く。
「ずっと一緒にいてくださいよ……」
それは、一生叶わない、秘密の願い事だった。