今更かもしれないけれど

湯神×ちひろ


「あの時、誘ってくれてありがとう」

 不意に思ったことが、思っていたタイミングとは違う状況でぽろっと言語化された。
 私でもなんで? と思ったし、相手はもっと疑問に抱いているだろう。
 不審そうな表情を浮かべる湯神くんに、私は苦笑を浮かべる。

「湯神くんが会いに来てくれて、湯神くんが寄席に誘ってくれたから……今があるんだなぁって思ったら、突然感謝したくなって」

 取り繕うに、思いついた言葉をつなぎ合わせながら理由を述べた。
 それでもなお、湯神くんの不審げな表情はおさまることを知らない。
 私だって、この話の着地点がよく見えていないのだ。
 思い付きで話をするのはよくないことなのかもしれないと反省を浮かべるものの、自分が思うほど反省していないことに気づく。
 なんというか、湯神くんとならどんな話でもしたいと思ってしまう自分がいるからで……こんな突然の話でも、もっと突拍子のない話でも、昔のことでも未来のことでも、なんだって話したいと思うわけで。

「あなた、ほんと時々わけがわからないこと言うね」

 そうやって呆れたような笑みを浮かべても、私にとってはなんだかご褒美みたいなもののように感じて、不思議だなぁと笑った。

「でも、なんとか繋ぎ止めたかったから……感謝されるのは、悪くない」

 それから、意外にも照れたような様子を見せながら紡ぐ言葉に、今度は私が不審に思う状況となった。
 初耳の言葉たちが、確かに脳裏に焼き付いていく。

 なんとか繋ぎ止めたかった。

 私が考えもしなかったことを、湯神くんは考えてくれて、動いてくれていたというわけで……。
「じゃあ、私より湯神くんの方が私を好きってことなんだね」
「どんな解釈してるんだ?」
「そっか~。湯神くん、私のこと好き好きだったのかぁ~」
「回答に困る話題よりも晩御飯のことを考えてくれ!」
「話を逸らすにしては無理やりすぎない?」
「元々話を逸らしたのはあなたでしょ!」
「あはは、湯神くんの顔が真っ赤だ」
 不思議な縁が繋がり続けて、私たちは一緒に住むことになった。
 その縁は、湯神くんが繋いでくれたものということで……やっぱり感謝に繋がってしまう。
「やっぱり、ありがとう。あの時必死に私を誘ってくれて」
「一言余計だ」
「あはは」


 これは、今更かもしれない感謝の話。
 そしてこの先の縁は……二人で少しずつ繋いでいきたい、そんな小さな誓いのようなものが心の奥に生まれていった。





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恋する100のお題 034:今更かもしれないけれど
(同人誌「同居にまつわるエトセトラ」設定のアフターストーリー/恋人同士/同居)
このネタは無限通りの解釈ができると思うので、個人的に書きたい感じで書かせてもらいました(謎の言い訳)。